ハンサード投資家 経済学入門-追われる国の経済学編
さて本日ご案内するのはお勧めの書籍です。
この本では一つの経済の世界観を見事に描き出しており、現在の対応方法の問題点と対処法まで記載してあり、経済学的な考えだけでなくリチャード・クーの本をまとめ上げる能力の高さを感じさせる一冊となっています。
一般の人も読めるレベルのことばで書いてあり、興味がある人であれば十分読み切れると思います。ただしそのページ数は656ページと、読む気にはなりません。
私はKindleで読んだので気づきませんでしたが…
さて彼の主張で最も重要なのは経済の発展段階に応じて「追う国(追われていない国)」と「追われる国」を分類するという単純な論法です。しかしこの二つの分類に応じて適切な金融政策が異なり、経済主体である民間と政府の行動からどのような経済の状態であるかを見事にまで描き切っている点が傑出しています。
この中でいくつか現在の金融政策や財政政策について重要な提言をしています。
- 「追われる国」では金融政策の効果は低い
- 「追われる国」では財政政策の累積政府債務のデメリットは低い
ということです。
656ページの本を簡略化することは難しいので結論だけ書きますと、「追われる国」では資金需要が弱いため、インフレになりにくく、政府が借金をして投資をしたとしてもインフレにはなりにくい可能性が高い。
そのため今日銀が行っている金融緩和は無駄である。やるべきことは政府の積極的な財政支出が必要だということです。
歴史的に政府債務が要因でインフレになった時は「追われていない国」の時代で、民間の資金需要も強い時期であったが、民間の資金需要が弱くなった「追われる国」の時代ではインフレ圧力が弱く、政府債務が増加することによる悪性インフレも生じにくい。この場合では積極的に財政支出を増やすべきだという説明なのである。
つまりこの本では先進国の積極的な財政支出を推進しているという本なのである。最近現代貨幣理論がアメリカで論争されている。この理論は経済学の主流派とは全く合いなれない「とんでも理論」とみなされているが、リチャード・クー氏の追われる国の経済理論では肯定されるかもしれない・・・正直まっとうな経済(サミュエルソン経済)をメインとしてきていた私としては衝撃的な展開でした。
また日本で中産階級が減ってきている理由として、製造業が中心の経済では、知識層ではなくとも中流階級として資産が形成が可能だが、労働コストの上昇により製造業が発展途上国に移転すると、残されたのは、高度な知識層の仕事と、単純作業に分かれやすくなり、貧富の差が開いていくとの分析をしています。
もちろん政府が財政支出する先を適切に選ぶことが本当に可能なのか等突っ込みどころも結構ありますが、それでも現在の状況をうまくとらえられていると思えるところも多くあり、新しい現実のとらえ方を提示した点では非常に傑出した本であると思います。
※彼の学説のバランスシート不況理論は、アービングフィッシャーのデットデフレーションやそれをもとに金融の経済への影響を説いたファイナンシャルアクセレレーター理論とも関係が深く、彼が考え出した理論なのかどうかは一定の疑義はあるが、その理論を深く推し進めたのは彼であることは異論はないと思われます。
※バランスシート不況とは、資産価値が暴落するなどして債務超過(バランスシートがつぶれた状態)となると、企業は財務内容を修復するために収益を借金の返済にあてるようになるため、日本銀行が金融緩和を行っても企業による資金調達が行われなくなり、設備投資や消費が抑圧されて景気が悪化すること。
※現代貨幣理論とは、現代経済の貨幣が信用(金などの実物による裏付けがない)により成立していることを捉え、政府は税収に制約される必要はなく、国債発行により財政支出量を調整することで、望ましいインフレレベルを目指すことが可能であるという理論である。従来の経済理論では、政府の財政赤字が拡大すれば同時に金利上昇と景気悪化を招くとし、政府の国債発行の拡大は望ましくないとした財政均衡主義が主張されてきた。一方で現代貨幣理論では財政赤字拡大では景気悪化を招くとは限らずマネーサプライ増加によるインフレ圧力がかかるのみとしており、この対立から多くの議論を呼んでいる。また、政府は将来の支払いに対して非制限的な支払い能力を有していることから、政府の債務超過による破綻は起こりえないとし、赤字国債発行の限度はインフレ率によって示されるとしている。
※現代貨幣理論は新古典派の貨幣数量説を基本に立っており、供給側が価格を決めるセイの法則にのっとった理論である。それに対しリチャードクー氏の理論はどちらかというと需要側が価格を決めるケインジアン的な要素が強く、本質的には全く異なる理論であるが、
ファイナンシャルアクセレレーター理論
https://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/journal/50/__icsFiles/afieldfile/2010/02/18/jim08122601.pdf
出典
現代貨幣理論はウィキペディアより引用(一部改変)